アートを学習に活かす

アートワークジャパン副理事長・檜森秀子が語る「学習向上のコツ」

図工の授業をやっていると、点対称や線対称など算数で勉強する内容を使ってデザインすることがよくあります。私は高学年でレリーフを教えますが、それは点対称や線対称を基本にしたデザインです。出来上がった作品は連続模様の美しさが存分にでているもので、廊下に掲示していると、大人にも子どもにも素敵な作品ね、と感心されます。その時先生達にびっくりされるのが、どんな風に線対称や点対称を教えたかということです。算数ではそれらを教えるのが結構大変だということをよく聞きます。逆に私にとっては簡単に子どもは理解しているのでびっくりです。今までの作品を見せて、点対称と線対称について教えて、こんな感じの美しさがでるといいね、と話すとあっという間に理解してそれぞれのアイデアでデザインを始め美しい作品を作ります。美しい作品を作ろう、という気持ちになって対象の概念が実際のデザインで必要になったとたん、一見子どもにとって難しい内容が当たり前のようにはいっていきます。アートをもちいたとたんに教えるのがとても楽しいものに変わっていくことをたくさんの場面で目にしています。

アートを教育に導入した背景(カナダやアメリカの例)

 従来の教育方法では2割の人間しか効果的に学べない!

アート学習にもちいることが解決策

かつて知能は主として言語的知能、論理数学的知能の二つと考えられてきましたが、現在知能は8つ以上存在するという考え方が急速に広まっています。(多元的知能:ハワード・ガードナー)最新の脳科学、認知心理学、さらにITの出現のより産業革命以来はじめてともいえる教育全体の見直しが世界的に起こっています。

また、教育方法とともに学びの意義も大きく転換しています。早く多くを覚える能力ではなく、様々な事柄を関連づけて考える能力が求められています。

これらの流れの中で新しい教育モデルとしてアートを学習にもちいるプログラムがアメリカやカナダで始まりました。

アートを学習にもちいることで報告されている効果

5年間の実施で生徒に情緒的、社会的な、学力的な向上がみられた

・     識字率が17%向上した

・     生活指導的問題が100から8へと減少した

・     学力テストが導入していない他校と比較して高得点

・     生徒の貧富の差(社会経済的要因)による影響を受けない

世界の教育の流れ

 教育先進国と呼ばれる国々では様々な取り組みがされていますが、そこでは統合、包括的な教育が重視されています。21世紀に活躍できる人間を育てるためには詰め込み教育や、習熟度別学習の効果があまりないことは、脳科学の観点からも明らかになっています。少人数制、共に学ぶことを重視するところの共通点があります。

カナダの例 ケイト・エクレス

(教育にアートをもちいるカナダの教育団体「アートを通して学ぶ会:LTTA」の副代表)LTTAに専念する以前はトロント大学大学院でMBAの学部の学長補佐をしていました。大学院が有名になり、年々飛び抜けて成績優秀な学生しか入学できなくなり、それと同時に実社会で活躍できる卒業生が減っていきました。この問題を重くみた学部長に事態を打開するための教育方法を見つけてくるように言われ、一年かけて世界中をまわり調査を行いました。スタンフォード大学の友人を訪ねると、優れたCEOの脳の使い方は画家の脳の使

い方と同じ、という調査結果を聞かされました。“細部を見ながら全体を把握する”“物事が感情にどう働きかけるかを理解している。”これらが大きな特徴です。様々な調査の結果、アートを学びに取り入れる必要性を理解した私は、その後LTTAに活動の拠点を置くようになりました。学びは子どもだけのものではなく、アートをつかうコンセプトは、企業や地域など様々な教育の場に応用できることを確信しています。

カナダのLTTAという教育団体は、今では世界20カ国で研修を行い500校以上の公立学校にプログラムが採用されています。研修を受けたアーティストが学校を訪問し、アートではなくアートをつかって学級担任と連携を取りながら算数や理科などの授業を行う物です。

アメリカの例 リサ・ドノバン

アメリカは8つの知能を提唱したハワード・ガードナーもアートを教育にもちいる研究を行っています。それぞれの大学、芸術や教育学だけが独自で研究するのではなく脳科学や心理学と連携をとりながら行われています。夏休みには大学院で、学校の先生対象に、どうやってアートをもちいて学習するのか研修会が行われ、そこで学んだ先生達が学校でアートをつかった授業をしています。

他にもヨーロッパでは、フランスでは、高校のカリキュラムに導入されている、アートを言葉にする、アートの読み書きとでもいうべき、アートリテラシーや、アートをつかって全人的に教育を行うイタリアのレッジョエミリアの取り組みなど様々なものがあります。

日本の現状と今後の展望

 日本では、まだアートをまなびにもちいるプログラムは盛んではありません。NPO法人アートワーク・ジャパンが中心になってアートをつかった学びを広げようとしています。(うちも本気でやっています!という個人の方、団体の方がいらしたらご連絡下さい。)

NPOとしては、学校教育のなかにどう取り入れていけるのかを模索していますが、当面はアートをつかって学ぶと効果が大きい子ども達に、家庭教師(アートワークデュケータ)塾などで提供していくことを考えています。いずれにしてもアメリカやカナダの試みが日本でも徐々に拡がるのではないでしょうか。

子どもと学び

 

アートを使って偏差値80アップ!

ともきくんの家庭教師を始めたのはともきくんが5年生の秋のことでした。ゆくゆくは中学受験をしたいということでしたが、成績はほぼオール1で、ほとんどイスに座っていることができない状態でした。国語、特に作文が苦手なので指導して欲しいとのことでした。

初めてともきくんと勉強したとき、まずノートの字が読めませんでした。

「なんて書いたの?」

と聞いても

「うーん・・・僕なんて書いたんだろうね。ハハハ」

という感じで不明です。

問題集をやらせると、1問を5分ほどやるとどこかにいってしまい、しばらく休憩してもどってくることの繰り返しです。お母さんに詳しく話を聞くと、ADHDで小学校前から病院に通っていますということでした。学校には1年の頃からそのことを伝えてあったので先生に厳しい叱責をうけず、出来ることをやるようあたたかく 接してもらえているようでした。苦手なことがあるのはさておき否定的な言葉をかけられることによる二次障害がおこっていないのは幸いでした。5分しか座っていられない、ではなく、5分は座っていられる、でスタートしました。

基本的に学ぶのが難しい概念はアートを使って学んでいきました。単位換算や対象非対称、確立、月の満ち欠け、作文など、様々なアートを使って学んだだめ、ほとんどストレスなくいろいろなことが身に付いていきました。それぞれの具体的なやり方はそのうちブログなどにアップしていきたいなあと思います。ちなみにこの時点でのともきくんの偏差値は25です。

一年以上一緒に勉強し、6年の秋からは本格的に受験勉強を始めました。学習内容そのものはわかるようになったものが多いのですが、受験勉強は少し勝手が違います。まず11月に志望校の過去問をやってみました。45分間で、問題そのものはそれほど難しくありませんが量はそれなりにあります。量に圧倒され、虫食い的に問題をやると力尽きてしまい、15分ほど問題を解いたら終わりにしてしまいました。一月ごとに15分ずつ取り組める時間を増やして、受験直前には45分間をめいっぱい使って見直しまでやる・・・というところまでもっていきました。受験直前の模試では偏差値は平均で40を超えるようになり、最終的には偏差値45の私立中学に合格しました。4教科トータルでは偏差値80アップしたことになります。

5分座ってすぐにどこかに行っていたともきくんは、最後には1時間脇目もふらず勉強できるようになっていました。これはひとえにアートをつかって気持ちに負担をかけずいろいろな知能を利用して学んでいったからだと自信をもって言えます。ともきくんは

「自分でも信じられない!僕は5分しか座ってられなかったんだよねー学校では小さい頃は床に寝転がってたし・・・ひもりんがいてくれたおかげだけど、ひもりんは一人しかいないから、僕みたいな他の小学生は困っていると思うよ。僕が勉強して、ひもりん1万人計画で、ひもりんのクローンを作って全国の困っている小学生に派遣してあげたいなあ~」

と言ってくれました。

ひもりん1万人計画は、私のやり方やノウハウは職人芸だからちょっと無理があるかなあ・・と思っていたのですが、そもそもこのやり方もアートワークジャパンのアートで学ぶ方法のワークからアレンジしたものがたくさんあります。だったら発達障害の子どもの支援のスキルとミックスして他の人に伝えることは充分可能なのではないかと思うようになりました。

 

 

国語2の子が読書感想文コンクールで数万人のなかから最優秀賞を受賞!

 

国語が2といっても三段階評価で2ではありません。5段階評価で2です。3年生の時に国語、特に作文が苦手なのでなんとかしてください。ということで勉強をスタートしました。本人と話してみると読書好きで豊かな内的世界を話す女の子でした。その割に、今のその素敵な話をそのまま書けばいいんじゃないの?というと急に固まってしまって。鉛筆がぴたりと止まってしまいます。やはりここはアートの登場です。私たちのNPOのつかっているアートは絵を描く芸術というものだけにとどまりません。ムーブメント、音楽、ライティングも含めたアーツです。作文と言うことで、アートの中でもライティングの技法

であるノンストップライティングからスタートしました。

 

 

アートワークエデュケーターの特徴

 認知特性を生かす

アートワークデュケーターのもう一つの特徴として、知能検査を行い、どのような学び方が一番適しているか、どのようにアートをつかったら効果的かを客観的に把握し教える方法を決めるということがあります。教える仕事をしていると、学校の先生は数学的知能、言語的知能に自分は問題があり、子ども時代に勉強で苦労したという経験をしている方が少ない印象があります。当然勉強が嫌いです、苦手でした。という方はあまり見かけません。そうすると、先生が「ノートをしっかりとりなさい。何度も書いて覚えなさい。」と言っているのをよく聞きます。

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